『流域生命シンポジウム in 王滝村』 2日目
翌朝、部屋の窓から見える木曽駒。下界は雲海の下にあります。庭に出て少し歩くと建物を背に御岳が眩しいです。右のドームに望遠鏡があります。
午前中は、柳川さんの基調講演の後、大沼さんのコーディネートで、5人のパネリストによるパネルディスカッションでした。以下、私なりにまとめてみました。
柳川喜郎さん(前御嵩町長)
当時、水源の保護のため、業者に対する不安感、自然公園の特別地域であることから、産廃処理場計画にまちをあげて反対した。岐阜県は産廃場計画に都合の悪い情報を隠していた。
とうとう19年ぶりに業者はすべての申請を取り下げて、計画は前面白紙となった。
瀬戸普さん(王滝村長)
村の87%が国有林。こんなところは高知県の馬路村のみ。1970年には人口が2266人、うち1000人以上が営林署の関係者だった。1986年にはスキー客が67万人いたが、昨シーズンは3万人だった。
財政難で役場職員を半減、給料を25%カット。扶助費(住民の福祉)も3割カットした。借金返済の目途は立ってきた。村づくりは、住民の要求に満足を施すことではなく、ともに希望を作り育てていくことだ。
渡辺泰さん(名水労中央執行委員長)
近代水道とは鉄管による圧力送水することだ。1914年に通水してから名古屋市の水道は、1975年7月に日量125万㎥がMAXだった。今では日量平均80万㎥ほどだ。文明の進歩とともに水を使わなくなっている。木曽川の水が清浄だから、高度処理しなくても十分だ。
原田裕保さん(豊田市森林課長)
長男、長女が王滝村に山村留学した縁で、今木曽ヒノキの家に住んでいる。
水道料金から1円を基金に積み立てて、間伐など森林保全に使う仕組みを2000年につくった。水源林の取得と高度合併浄化槽の普及にも努めている。自分たちの水は自分たちで責任を持つ必要がある。
宮澤杉郎さん(地域自給をつくる大豆畑トラスト)
木曽川沿いにあるにもかかわらず、自流水を使えない八百津町は岐阜県で水道料金が一番高い。上流の畑を下流の家庭をつなぐ仕組みづくり。農家の仕事が見えることが大事。自分の残したい風景のあるところで作られたものを食べるのがよい。
午後からは、①林業再生、②水源基金、③水利権と下流域の利水の矛盾、④上下流交流、⑤王滝村の生活・文化の5つの分科会。私は、「③水利権と下流域の利水の矛盾」分科会のコーディネーターを務めました。
まずは、問題提起として、私から長良川河口堰完成後における知多半島の水道水の現状についてお話ししました。続いてスピーカーの渡辺泰さん(名古屋水道労働組合中央執行委員長)から、水利権(川から水を取る権利)の基礎的な解説と、名古屋市の水源でもある木曽川水系の利水の実態についてお話しいただきました。同じくスピーカーの富樫幸一氏(岐阜大学地域科学部教授)からは、豊富なデータを基に、木曽川水系の水余りの現状、長良川河口堰も徳山ダムも木曽川水系連絡導水路も不要なこと、既存のダムの統合運用や、用途間で水を融通しあうことで渇水対応が可能なことなど、これからの利水のあり方について示唆に富む提言をいただきました。その後に、会場の皆さんとフリーディスカッションをしました。
以下、発言の要約です。
コーディネーター:神谷明彦
長良川河口堰が完成してから知多半島の上水道の水源が木曽川から長良川河口堰に切り替えられた。それ以来、きれいでおいしい木曽川の水は工業用水や農業用水に使われ、我々住民は長良川河口堰の水を飲んでいるという、「あべこべ」状態が続いている。
岐阜市をはじめとする都市部の生活排水、工業排水、農業排水が流れ込む長良川河口堰の水は、木曽川中流部にある愛知用水兼山取水口の水より汚くて当然だ。浄水時には活性炭など薬剤を多く注入しなければならない。
多くの住民が、飲料水の水源を長良川河口堰から木曽川に戻すことを望んでいる。国・県は「水の安定供給のためには、長良川河口堰の水が不可欠」と言うが、仮にそうだとしても、住民の飲料水にはよりきれいでおいしい木曽川の水を優先して供給するのが当然だと思う。
実際に、木曽川の水も長良川河口堰の水も知多浄水場まで配管されており、緊急時には切り替え可能な状態になっている。それならば、常時、配管を切り替えて、住民は木曽川の水を飲み、長良川の水は工業用水や農業用水に回すこともできるはずだ。このように、水源を変更して、私たちの飲料水を木曽川の水に戻すことすら直ちにできないのは不思議なことだ。
これらを妨げているのが「水利権」と「水不足神話」ではないだろうか。実際には水余りが指摘される中で、新たな水源をダムなどのハードウェアに求めるのではなく、水の融通・交換など、水の問題をソフトウェアで解決することはできないだろうか。そんな切り口で、利水の矛盾とこれを是正するための方策について議論ができればと思う。
スピーカー:渡辺泰さん
水利権については、公水論の立場、私水論の立場、学説はさまざまある。私水論に立てば、所有権・漁業権・通行権・入会権と同じく物権として生活・生業のために排他的に支配できるが、実際は、公水論と私水論が輻輳して運用されている。水量が豊富で新規参入の利水が先行利水者の利水に影響があれば、同意条件としてダムなどの工作物の設置、季節ごとの取水ルールが課題となる。逆に言えば自然流量が十分にあればダムによる水補給は不要だ。
木曽川の下流域は江戸時代からの灌漑用水の慣行水利権があり、明治・大正期以降には中上流域に水力発電所が隈なく建設され、許可水利権が設定されている。名古屋市の水道は大正期に始まり、戦前に取得した自流水利権分と、戦後の水源開発で取得したダム水利権分が1:3だ。
名古屋市の水道水の使用量は減っている。トイレ、洗濯機、食洗機なども節水型が次々と開発されている。文化度が高くなると、水を使わなくなるのが最近の傾向だ。現在1日最大使用量は100万㎥ほどで、供給能力はそれを大きく上回っている。
1994年の大渇水でもダムと農業用水の調整で乗り切っている。当時、県水が断水に踏み切ったにもかかわらず、名古屋市では断水をしなかった。実は断水では(通水時の使用量がかえって増えるため)水の使用量を減らすことはできない。名古屋市では水道の圧力を小まめに調節して渇水に対応した。これが一番効果的だ。技術職員を配置し、水運用と維持管理を直営で行っているからできることだ。
スピーカー:富樫幸一さん
木曽川水系の農業用水の水利権は耕地面積の半減から余裕が生じていると考えられる。都市用水については当初過大予測がされていたが、近年の需要は70㎥/s程度で、すでに供給過剰であるにもかかわらず、長良川河口堰や徳山ダムが開発された。最大取水能力は需要の実績を大きく越えている。名古屋市の水道を見ても、人口が増加しているにもかかわらず1日給水量は減っている。不要なダムへの支出が水道事業にムダな負担を強いている。工業用水に関しても、水のリサイクルの進展や製造業の空洞化により水需要が減少している。
渇水の正しい理解が必要だ。ダムや河口堰の利水計画は10年に1回の渇水に対応できるようにつくられている。ダムの貯水量が50%を切ると取水制限を行うが、10~20%の取水制限は稼働率の余裕の範囲内なので問題にならない。異常渇水時には、発電用ダムからの放流や、農業用水の転用、河川維持流量の切り下げで対応するのが現実的だ。牧尾ダム・阿木川ダム・味噌川ダムの統合運用や、需要サイドの節水対策も効果を発揮できるはずだ。異常渇水までも水源開発計画に織り込むのは間違っている。リスクと費用対効果を考えねばならない。
これからの提言として、無用な木曽川水系連絡導水路事業は廃止すべきだ。知多半島の上水道は木曽川総合用水(木曽川大堰)に戻せるし、三重県内の利水も既存施設で賄えるため、長良川河口堰のゲートは開放できる。これによって長良川は甦るだろう。さらに、人口減少社会に備えた都市用水のダウンサイジング、そして上流部の山林の持続的な保全が治水・利水の安定性のカギになると考えている。
ディスカッションから
両方の水源を選択可能なのに、何故わざわざより汚い方の水を浄水場で浄化して住民に供給しなければならないのだろうか。長良川河口堰は、莫大なコストを掛け、自然豊かなダムのない長良川を分断してまで、建設する必要があったのか。徳山ダムは本当に必要なのか。さらには、連絡導水路は何のためにつくるのか。首をかしげることばかりだ。
そんな中で、農家の方から問題提起があった。「それでは干ばつで米ができなくても良いのか?」また、疑問も提起された。「自分は知らないが、農業用水の必要量は誰がどうやって決めているのだろうか?」
時間の関係で十分にディスカッションできたとは言えないが、すべての水利用者が当事者意識を持って、自分でできることは何か、公共でできることは何か、社会的コストはどこまで負担できるのか、他人任せにせず考える必要があるのではないか。単なるパイの取り合いであってはならないし、無から有を生み出すことはできないのだから、人間の遣り繰りの知恵が不可欠になるはずである。
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