ヘキサメチレンテトラミン
先々週、東京の水道水でホルムアルデヒドが検出されて、大騒ぎになりました。原因は、ヘキサメチレンテトラミンが工場廃液に混じって利根川に放流されたためでした。
ヘキサメチレンテトラミンとはどんな物質でしょうか。メチレン(-CH2-)がヘキサ(6個)と、アミン(-NH2)がテトラ(4個)からなる化合物ですが、実はちょっと変わった構造をしています。左下の分子模型で、黒い球が炭素、青い球が窒素、白くて小さい球が水素を表しています。炭素に結合した水素を省略して、骨格だけを表した構造式は右下のようになります。
ヘキサメチレンテトラミンは酸などの触媒があると水中で加水分解(水と化学反応)して、ホルムアルデヒド(HCHO)とアンモニア(NH4)になります。これが浄水場で検出されて騒ぎになったと考えられます。
ホルムアルデヒドは接着剤や防腐剤に使われる化学物質で、刺激臭を持つ無色の気体。水溶液はホルマリンと呼ばれています。
化学反応性が高く、タンパク質のアミノ基などと結合してタンパク質を変性させるため、皮膚や粘膜に触れると炎症を起こします。また還元性が高いため酸化防止剤としても使われます。これらの化学的性質を利用して、ホルマリンは消毒や生物の標本作りにも使われます。
メチルアルコール(メタノール)中毒で失明することが知られていますが、これは代謝によりメタノールが酸化されて生成したホルムアルデヒドが網膜を損傷するためと考えられています。
ホルムアルデヒドは、単独でポリオキシメチレン樹脂を、また、尿素やフェノールなどとも反応して尿素樹脂やフェノール樹脂などのポリマー(重合体)をつくります。私たちの身の回りには、ホルムアルデヒドを原料とした様々な物質が使われているのです。
余談ですが、ヘキサメチレンテトラミンを硝酸と反応させてニトロ化(正確には硝酸アミド化)するとトリメチレントリニトロアミンが生成します。これはセムテックスなどの高性能プラスチック爆薬に使われています。
(CH2)6N4 + 4HNO3 → + 3 HCHO + NH4NO3
ところで、ヘキサメチレンテトラミンの窒素を炭素(≡CH)に置き換えたものは、アダマンタンと呼ばれる炭化水素化合物で、融点が高くとても安定な結晶となります。左下の分子模型で、黒い球が炭素、白くて小さい球が水素を表します。右下は、炭素に結合した水素を省略して骨格だけを表した構造式です。
実はアダマンタンは、ダイヤモンド構造の最小単位を持った化合物なのです。このアダマンタンの構造が無限に連なって、炭素のみの巨大分子となったものがダイヤモンドです。
おなじ炭素でも黒鉛はベンゼン環が無限に連なったグラファイト構造をしていて、化学的な性質も異なります。下図で、左下がベンゼン(C6H6)。ベンゼンの構造が無限につながって、さらにそれが立体的に層状に積み重なったものが右下のグラファイト構造です。グラファイトでは、ベンゼンの二重結合のπ電子雲の重なりを通じて電子が移動できるため、導電性を示します。
この他、炭素には、サッカーボールの形をしたフラーレン(C60)やカーボンナノチューブのような構造のものがあるこことが知られています。最近これらの構造を持つ炭素の研究が進んでおり、その性質が明らかになりつつあります。
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