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2012/07/11

脳はだまして使え! ~やる気と記憶の秘密~

東京大学大学院薬学系研究科准教授 池谷裕二(いけがやゆうじ)さんの講演を聴く機会がありました。池谷さんは1970年生まれ。『脳はなにかと言い訳する』『単純な脳、複雑な私』など著書多数。

脳が人間の行動をコントロールしていると考えるのは実は誤りで、自分自身の行動が脳をコントロールしているというお話しでした。

要旨は以下の通り。

眠いから寝る。
楽しいから笑う。
欲しいから買う。
というのが常識と考えられているかもしれないが、じつは脳の思考が人間の身体を支配しているわけではない。
意識と無意識があるが、実は無意識のほうが本当の自分なのだ。

例えば、錯視。
色覚細胞は網膜の中心付近しか存在しないから、実は視野の隅のほうでは色を認識できない。しかし、視野全体に色彩があるのは、脳が見えていない情報を勝手に書き加えているからだ。視神経は100万本しかない。すなわち人間の目は100万画素だが、それではデジカメの解像度にはるかに及ばない。(最近のデジカメは軽く1000万画素はある。)つまり、脳が解釈を加えているから、今我々が認識しているような視覚が成立するのだ。

Better than average効果というものがある。あなたの能力は平均以上ですかと尋ねて、平均以上と答える人は約70%。平均以下は約2%。自分は同僚の教授よりも優れていると答えた教授は94%。すなわち、脳はあり得ない幻想を作り出していることがわかる。

変化盲という現象がある。ホテルのフロントなどで手続きの途中で受付の人が入れ替わっても、ほとんどの人がそれに気付かないことが知られている。これも、脳が自分の都合の良い解釈をしている例だ。

記憶は年齢とともに衰えると一般に思われているが、記憶は年齢とともに衰えることはない。
大人になると、思い出せなくなるのは、単に子どものころの情報量よりも大人の持つ情報量のほうが圧倒的の多いので、検索が困難なだけだ。
なかなか覚えられなくなるのは、大人になると覚える努力をしなくなるからだ。
最近のことをすぐに忘れるというが、大人の最近のほうが一般に期間が長くなる。
また、子どもは度忘れをしても落ち込まない。
歳をとると記憶力が衰えるという社会通念がいけない。ネガティブな自己暗示は能力を低下させる。逆に、人は何かに注意、興味を持った時には、記憶力が高まることが知られている。

歳をとると神経細胞は減っていくというのも嘘だ。確かに生後3歳くらいまでは脳細胞が減少するが、その後は100歳になってもほぼ変わらないことが知られている。

鳥は、人間以上に、非常に記憶力が良い(正確な)ことがわかっている。モズには早贄(ハヤニエ)の習性があるが、ときどき餌の仕舞場所を忘れてしまうことがある。これは記憶がまるで写真に撮ったように正確だからだ。時間がたって餌を置いた木の枝の周りの景色が変わると、違う場所だと認識してしまう。
すなわち、正確すぎる記憶は役に立たないことがわかる。

脳の気持ちになって考えてみよう。脳は暗い頭蓋骨の中に幽閉されている孤独な存在だ。暗中模索状態の中で、身体こそが唯一の情報源。脳は身体から情報をもらって自分の状況を判断している。

冒頭に問題提起したが、
実は眠いから眠るのではなく、横になるから眠くなる。笑うから楽しくなる。逃げるから怖くなる。見るから欲しくなる。
本当は、身体が先で脳は後なのだ。

イイッツと歯を噛むと、ドーパミン系が活発になる。箸を唇で縦にくわえた状態で漫画を読むのと、箸を歯で噛んで横にくわえた状態では、同じ漫画を読んでも面白さが違ってくることが実験的に証明されている。歯でイイッツと箸を噛みながら読んだ時の方が明らかに面白く感じられる。

ボトックスというボツリヌス菌の毒素を顔面に注射する美容法がある。これをやると顔の筋肉が弛緩して収縮しなくなり、効果は数か月継続する。いまでは芸能人のほとんどがこれを使っていると言われている。
人間は人の顔を見て、人の表情の真似をする習性があるが、ボトックスを使っていると人の顔の真似ができない。すると脳は人の感情を判定しづらくなるので、人の喜怒哀楽の表情を撮った写真を見せても、正答率が下がることが実験的に知られている。
つまり、顔の表情や身体の姿勢が人間の感情を牽引しているのだ。

以上から、気をつけ、あいさつ、号令などは、精神論の面からではなくて、身体論からして結構大事。作業興奮という言葉があるが、作業をやりだすことによって脳が興奮してやる気が出る。まずはやり出すことが大事。やる気は身体で迎えに行くのだ。

脳は我々が考えているよりも単純。心は身体にある。心は身体に散在するというべきだ。
脳は自分の体のとった行動を観察して自己理解をしている。古代ローマのユヴェナリスは「健全なる精神は、健全な身体に宿る」と言ったが、これは正しい。フロイトやデカルトなどの心理学者や哲学者以来、「心=脳」が重視されすぎてきたきらいがあるが、実は、脳は身体の従属物なのだ。

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