指紋検出に使われる ニンヒドリン反応とは?
指紋の検出といえば、ニンヒドリンという試薬が昔から使われてきました。ガラスや金属に付着した指紋は、アルミニウムの粉をまぶして可視化する方法などもありますが、紙や布に付着している指紋は、ニンヒドリンという化合物の水溶液を噴霧器で吹きかけて、ドライヤーで加熱すると、指紋の部分だけが赤紫色に染まるので容易に検出することができます。
ニンヒドリンは、指紋に含まれるタンパク質やアミノ酸のアミノ基(-NH2)と反応して、Ruhemann's purple と呼ばれる紫色の色素に変わることが知られています。
アミノ酸は、生物のたんぱく質の構成要素で、分子内にアミノ基(-NH2)とカルボキシル基(-COOH)を持つ化合物です。「R」はそれぞれのアミノ酸によって異なります。「R」=「H」の場合は、グリシンと呼ばれるもっとも単純なアミノ酸です。ニンヒドリン2分子とアミノ酸が反応して、色素とアルデヒド、二酸化炭素と水が生じます。
この反応のメカニズムを考えてみましょう。
ニンヒドリンは、芳香族の環状ケトンで、ジオール型とトリケトン型の平衡状態にあると考えられます。
カルボニル基(-CO-)に挟まれて一番電子密度が低くなっているトリケトンの真ん中のカルボニル基の炭素を、アミノ酸のアミノ基(-NH2)が攻撃して、脱水、脱炭酸、加水分解することによって、ニンヒドリンの2つの水酸基(-OH)が水素(H)とアミノ基(-NH2)に置き換わったものが生成すると考えられます。下図の青い矢印は共有結合に関与している電子対が移る様子を表しています。
ニンヒドリンの2つの水酸基(-OH)が水素(H)とアミノ基(-NH2)に置き換わったものがもう1つのニンヒドリンと反応して、脱水することにより、分子全体に交互に二重結合(共役系)を持つ色素が生成します。
頭の体操のつもりで、本当に久しぶりに、有機化学反応の反応機構を考えてみました。
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コメント
H2Oが4当量出て2当量入っているように見えます。
なぜ最終的に3当量のH2Oが出るのでしょうか。
補足をお願いしたいです!
投稿: | 2020/07/12 22:11
まず、最初の化学反応式を見てください。式の左辺と右辺の原子の種類と総数が等しいことから、水が3分子生成するのは妥当と考えられます。
それでは、順次、反応機構を追っていきましょう。
1段目のニンヒドリンの平衡状態の式では、反応が右に進むと1つの水分子が生成します。
2段目から3段目に移る過程で、1つの水分子が脱離します。
4段目では、左側と右側でそれぞれ1分子、計2分子の水が反応に関わり(使われ)、5段目で1分子が生成するように書かれています。
※ここの4段目の右側では、アルデヒドの脱離を説明するのに、水分子が関与した6員環構造の脱離機構を想定しています。ですから、正味ここでは1分子の水が関与し、それがそのまま5段目で生成する形で表現されていることにご注意ください。
6段目と7段目では、ニンヒドリン骨格が2分子脱水縮合する反応で、水1分子が生成します。
以上をまとめると、
1段目で、水1分子が生成
2~3段目で、水1分子が生成
4~5段目で、水が2分子反応し、1分子が生成
6~7段目で、水1分子が生成
となり、合計2分子の水が生成することになります。
ただし、6段目で反応する2分子目のトリケトン型のニンヒドリンを生ずる(もう一つの1段目の反応の)際に、1分子の水を生成します。よって、2分子+1分子=計3分子の水が生成します。
投稿: 神谷明彦 | 2020/07/15 15:30