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2014/04/09

高野登氏講演「サービスからホスピタリティへ ~価値創造のパラダイムシフト~」を聴いて

大府市役所で開催された人とホスピタリティ研究所長、元ザ・リッツ・カールトン日本支社長高野登さんの講演を聴きました。以下は私なりの要約です。

「おもてなし」の語源は広辞苑を調べても出てこないが、
聖徳太子の17条憲法にある「和を以て尊しと為す」の「以て為す(もってなす)」が語源と思う。
何をもって何をなすかが、もてなしの本質だ。

会社の存続は、経営者としての基本的な責任だ。
その上で、会社ができる社員への唯一最高のもてなしは、この組織、この仲間で良かったという、生きがい・働きがいだ。その人たちとの出会いを以て、ワクワクできる「良かった」というものを為すことだ。
幸せな社員は幸せな働き方をするから、みんなも幸せになって欲しいという接客になる。それが自然にお客様に伝わる。
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ホスピタリティ(おもてなし)とサービスの違いは何か?
中堅ホテルマンが、今さら聞けない質問だ。

▲講演の演壇には昔は水差しが置いてあったが、今はペットボトルとグラスでサーブするようになった。そこまでは当たり前のサービス。
自分は、講演の3分前になったら、ボトルのキャップを開けてグラスに注ぐかどうかを聞きに来て欲しいと思う。他にも冷やすか常温かなど、水にも十人十色のニーズがあるだろう。前もって提案するというこの気遣いができるホテルマンは百人に一人しかいない。
言われる前に相手に一歩寄り添い、考えるプロセス。それがホスピタリティだ。
これはサービスをやっていて自然とできるようにはならない。

▲仕切られたカーテンの中に3人の人がいて、それぞれがハサミを欲しいと言ったとする。普通の鉄製のハサミを用意したとして、右腕が不自由だったり、目が見えなかったり、幼児だったりしたらどうだろうか。ホスピタリティがあるとは言えない。原因は、コミュニケーション不足や、自分の価値観で判断したことだ。

一流のホテルマンは相手の立場、価値観でものを考えることができる。そうなるにはトレーニングが必要だ。傾聴力、対話力、表現力などを伴う心のエンジンを鍛え、大きくする必要がある。
しかし、得てして感性の遣り取りをすることなく職場で年数だけ経ってしまうケースが多い。リッツ・カールトンでは新人一人一人に52?時間分の(感性の)筋トレプログラムを作っている。
例えば、人間関係構築能力とか、優れたところがあればどんどん伸ばすタレントプラス思考でいく。弱いところにフォーカスしないのがリッツ・カールトン流だ。
社員一人一人が、できること、やりがいを持って仕事をしてほしい。
目の前の景色を変えてみる。すなわちパラダイムシフトだ。

例えば、駅前の放置自転車をなくすにはどうしたらよいか。ブレーンストーミングをしてみる。
「自転車を止めないでください」という看板を置く。いや、「いらなくなった自転車をください」とか「アフリカに寄付する自転車を探しています ○○NPO法人」とか書いた方が効果がある・・・などなど。
色々な意見が出るだろう。違う結果が欲しいなら違う行動をする、違う景色を見ることが必要だ。
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モノが売れない理由はたった一つ・・・あなたがそれを買う明確な理由がないからだ。
あの人だから、あの組織、あのリーダーだから任せたいというものがあると強い。
特に、「あの人に」というのは組織ではなく個人でできる。

▲高知のネッツトヨタ南国に横田さんという方がいる。年に一度は会いに行くが、横田さんとは15分話して、あと2~3時間は職場を見る。20代のメカニックが「車を買ってくれた人の人生を命がけで守るのが自分の仕事だ」と言ったりする。こんな言葉は社風からしか出てこない。

▲長野市に中央タクシーという会社がある。社長の宇都宮さんはMKタクシーで学んだが、それ以上のことを中央タクシーで実践している。中央タクシーも「お客様の人生を守る」ことを仕事と考えている。究極そこへ行くんだと思う。
リッツ・カールトンも「お客様の生命と財産を守ること」を基本的な心得としている。

宇都宮さんが先代からタクシー会社を受け継いだとき、運転手が誇りを持って仕事をしていないことに気付いた。宇都宮さんの「会社を良くしたい」という想いに動かされて、若手社員が考えるようになった。古参の社員は面白くないので十数人が辞めたが、あえて補充せずにやる気のある若手だけでなんとか営業を続けて、今の会社に育てた。
中央タクシーの朝礼は業務連絡ではない。みんなが参加して、アイディアを出す。考える社員になるための朝礼だ。このやり方はリッツ・カールトンの朝礼「ラインナップ」と全く同じ考え方の上に立っている。

中央タクシーは、長野オリンピックの時にある決断に迫られたことがあった。オリンピックの開催中、海外メディアにとってタクシーは必需。タクシー会社にとっては特需だ。メディア用に配車を振り向ける必要がある。
しかし、中央タクシーとして特需を取るべきか、地元のお得意さんを優先すべきか迷って、社員みんなで会議を開いた。結論は地元優先だった。ただし、115台中30台は断りきれなくてオリンピック対応に回した。イベント中は最下位だったが、その後、地元のホテルや病院などから信頼されて、どこもタクシーの連絡先リストのトップに載るようになった。今では、長野市で唯一黒字営業を続けている。
大事なのは、原点さえブレなければお客様はついてきてくれるということだ。

ボーリングでストライクを出そうとすれば、センターピンは絶対にはずしてはいけない。
イスラム圏で売れているテレビは韓国製だ。なぜか? お祈りの5分前にコーランが流れて時間を教えてくれるように工夫されている。ここに買う理由がある。日本製は画質や音質を訴求している。
ザンビアで売れているテレビも韓国製だ。ザンビアでは停電が当たり前だ。韓国製は停電に強く造ってある。
アフリカの南部で売れているエアコンは韓国製だ。マラリアの多い地域では蚊の嫌がる音波を出す機能がウケている。日本製はクオリティを訴えている。
明確な理由がなければお客様は買ってはくれない。
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リッツ・カールトンがホスピタリティ日本一として有名になった時に、一見さんは賞賛したが、スーパーリピーターは冷ややかだった。この危うい気の緩みは内部では変えられない。そこで、「リッツ・カールトンが大切にするサービスを超える瞬間」という本を書いて海外のベストプラクティスを紹介したら、リッツ・カールトン大阪には、「本に書いてあることと違う」とクレームがたくさんついた。
99人に褒められても、1人の賢い人に笑われないようにすることが大事だ。

▲東北に小さなホテルがある。このホテルのコーヒーショップに夏の午後に親子三代の家族連れの客が来た。給仕を待つうちにおじいちゃんが失禁してしまった。これに気が付いたウェイトレスはとっさの機転で手に持った冷たいお茶をおじいちゃんのズボンにこぼして、謝ったのちに浴場で着替えることを勧めた。
サービスの基本はもちろんこぼさないことだが、彼女が見たセンターピンは、お客様に恥をかかせないこと、それを自分が引き受けてお茶をこぼすことだった。これは思い付きではできない。普段から仕事の意味を話し合っていないと無理だ。ここには良い経営者とリーダーがいる。

リッツ・カールトンらしさとは、竹林の地下茎ように社員一人一人の思いが目に見えないところでつながっていて、ホスピタリティのベクトルが同じ方向に向いていることだ。
しかし、会社に新しく入る社員がこの根に自然につながることはないと考えている。だから筋トレが要る。これはトップの責任だ。リーダーの仕事は社員のpersonal growthを支えることだ。そして、会社は社員の幸せを担保するために適正な利益をあげなければならない。
社会に対して価値を創り出すためにリッツ・カールトンは存在する。リッツ・カールトンはホスピタリティの概念を広めたと思う。
リッツ・カールトンの朝礼「ラインナップ」とは、シフトの初め(ホテルは24時間営業)の会議のこと。自分たちの行動はお客様にどうつながるか、理念・哲学に通じる話しをしている。
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橅(ブナ)は、利用価値がないと思われて杉にとってかわられたが、根の保水力は1本あたり7~8トンもある。人材は土の下の見えていない部分で見抜く必要がある。お客様から見れば、社員のキャリアには興味なく、この人が何をしてくれるかが問題になる。人間力の問題だ。心が柔らかくて折れない人、遊び心のある人が欲しい。
社会に出ると温室はなくなるので、その前に喧嘩や失恋や挫折を経験していない人は弱い。これらは感冒の予防接種のようなものだ。中高生の時の悩みも成長のためのインフルエンザだと思うと、心が楽になるし、中高生の目が輝く。
そう言う困難をくぐってこないで大学時代を過ごした新入社員はビシビシしごくことにしている。

社員が社風に合わせて行動できないとすれば、社風を見直す。一つだけ大切なことは社員に幸せになって欲しいかどうかだ。
会社で働く期間は、人生でも大切な時期。人生のクオリティを決めるかもしれないこの時期に輝いてほしい。社員満足ではなく社員幸福が大事だ。社員幸福とは、仕事を通じて、人から感謝された時、価値を創り出した時、成長を実感した時・・・などに感じるものだと思う。

講演の後で、
社員が、色々考え抜いた末に「そうか、お客様の生命と財産を守ることが自分の仕事だ」と気づくプロセスはすごく大事だと思いますが、行政の場合は、深く考えるまでもなく安直に「住民の生命と財産を守るのは当然の仕事」となってしまいます。この点、行政にふさわしい仕事の本質を考えるヒントはないでしょうか?
と高野さんにお尋ねしたところ、某市のマニュアルを参考にしてみてはとのアドバイスをいただきました。さっそく見てみることにしましょう。

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コメント

 1997年にザ・リッツ・カールトン・ホテル大阪が開業した直後に、名古屋の異業種交流会のメンバーでホテルへ行き、当時の営業部長のお話を聴きました。
 お話の中で印象に残っているのは、「ホテルマンとしての知識は入社後に身に付けることが出来るが、ホスピタリティの心は、個々の人の成長する環境で身に付くものであり、入社後に身に付けることはできない。そのため、ザ・リッツ・カールトン・ホテルでは、世界レベルでホスピタリティの心を有した人かどうかを見極めるプログラムを開発し、先ず、そのプログラムをパス人を対象に学識試験などを行って新入社員を選抜している」というお話です。

 当時、私が勤めていた企業はホスピタリティを重視していましたので、その後の社員旅行でホテルに泊まり講演を聞いたり、ホテルマンの接客を体験しました。社員旅行でザ・リッツ・カールトン・ホテルに泊まるのは、極めて異例なことでしたが・・・。

 自分の接客したお客様が感動し、その感動されているお客様の姿を目の当たりにして、自分の仕事に喜びを感じるのがホスピタリティですね。

投稿: 堀 孝次 | 2014/04/10 11:37

堀さま
コメントありがとうございます。
ホスピタリティを重視する企業にお勤めだったとは存じませんでした。

>個々の人の成長する環境で身に付くものであり、入社後に身に付けることはできない。
講演ではそこまで言い切っていませんでしたが、働いているうちに自然とできるようになるようなものでは決してないことを強調されていました。

>ホスピタリティの心を有した人かどうかを見極めるプログラムを開発し、先ず、そのプログラムをパスした人を対象に学識試験などを行って新入社員を選抜
我社の欲しい社員を明確にイメージできるのはすごいことです。そこのところは課題です。
わずかでもあやかりたいものです。

投稿: 神谷明彦 | 2014/04/18 11:35

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