図書館は好きな場所の一つです。太古から今までの宇宙の歴史、ミクロの世界からマクロの世界まで、即物的なものから思想的な概念まで、人類の英知が詰まっています。図書館は創造力を掻き立てる場所であり、人生を豊かにする場所です。
東浦町ではこれから、図書館の使い方について考えたいと思います。
こじんまりして居心地の良い東浦町中央図書館。建て替え計画はありませんが、現在の建物を活用して、より居心地の良い空間にするには?より親しまれるには?みなさんの「こんな図書館にしたい!」を持ち寄って、ハードからソフトまで、図書館の使い方の工夫をしたいと思います。
昨年、佐賀県武雄市にオープンした市立図書館では、TSUTAYAが運営、年中無休で夜は9時まで営業、図書館の中の空間を思いっきりモダンにして、スターバックスが入って飲食もできます。一部物販のエリアがあって雑誌は販売しています。
2012年にLibrary of the Yearを受賞した長野県小布施町の”まちとしょテラソ”は、住民が交流して、何かを生み出す場、何かを創り出す場としての図書館です。「学びの場」であると同時に「子育ての場」「交流の場」「情報発信の場」であり、ワークショップや交流イベントを積極的に開いています。
東浦にはすでに、民間でTSUTAYAにスターバックスが入ったものがあります。だからこれをそのまま東浦でもやろうということではなくて、東浦として、これから図書館をどんなふうにしていきたいか、どんなものがあったらいいのか、どんな使い方をすればいいのか、実際に図書館を利用される皆さんからご意見をいただき、みなさんと一緒に考えていきたいと思います。
そのためのヒントになればと、和歌山大学特任教授 附属図書館長の渡部幹雄(わたなべ みきお)先生をお招きしました。
偶然にも私は、9年前に渡部先生にお会いしたことがあるのです。当時、先生は滋賀県愛知川町(現 愛荘町)の図書館の館長をされていました。私は先生の著書を読んだら、どうしても行ってみたくなって愛知川町立図書館を視察させていただきました。
それ以前、渡部先生は長崎県森山町の図書館の立ち上げをされたりしていたのですが、平成10年に愛知川町長に乞われて愛知川町立図書館に。このとき、断るつもりで、ほとんど無理な条件(自分の待遇に関してではなく、新図書館のコンセプトやスペックに関すること)を付けたが、町長がすべて呑んでしまったので断れなくなってしまったのだそうです。行政職員からいわゆる図書館のプロになった方です。
もちろん愛知川町立図書館は建物も充実していますが、(今では当たり前になった)明るく広々としたスペースに館内を見渡せるように木製のシンプルなデザインの低めの本棚が並んでいました。利用者は思い思いの場所で読書が出来るようになっています。庭にも、テーブルが置いてあって、ガーデンテラスで本を読むこともできます。
書棚の本のディスプレイはきれいで、工夫がなされています。そして、書籍に限らず、あらゆる資料を自分たちで収集しています。全国の電話帳、新聞の折り込みチラシから、町内の飲食店のメニュー、自動車販売店のパンフレットまでも・・・。
この図書館は、毎週月・火がお休みです。”図書館は週休一日”の固定概念に縛られるのではなく、「図書館のかき入れ時の日曜日に職員が一丸となって最高のサービスをするためには、週2日休みでないとシフトが組めません。職員のコンディションを整えるのはマネージャーの役目です。」とのお答えでした。
今日は、渡辺先生のお話を聴いて、図書館の認識を深めまた広げる機会にしたいと思います。
そして、たくさんの図書館利用者みなさんに11月2日から始まる「よむらびカフェ」に参加していただいて、私たちの図書館の近い未来を語りあいたいと思います。

下記は渡部先生の講演要旨のメモです。
これまで自治体の図書館を3つつくった。自分は大きな街の大きな図書館よりも、小さな町で地域に根付いた図書館をつくることに関心を持ってきた。
和歌山大学付属図書館は、1階を交流・議論のフロア、2階を読書のフロア、3階を研究のフロアにして、活用するにつれてスパイラルアップしていく構造。1階はテーブルから壁までホワイトボードになっていてその場で書きながら議論できる環境になっている。図書館を大学の授業で使うこともある。全学生約4千人中、一日に約2千人が図書館を利用するほど、利用者が増えてきている。
判で押したようなこれまで通りの定型的な使い方を続けるのはたやすいことだが、必要なことは堅持し、そうでないことは利用者の都合に合わせて変化発展させていけばよい。
図書館法には、「土地の事情に沿い」と言う表現がある通り、それぞれの自治体で工夫を凝らしてオーダーメードの図書館をつくればよい。
福岡県田川市では、図書館の後押しで、元炭鉱労働者の描いた絵が(アンネの日記のように)世界記憶遺産に指定された。
愛知川町立図書館では、図書館の後押しで、地域住民による地域の記録を住民が執筆・出版した。
図書館は人の隠れた能力を引き出す力を持っている。
図書館にたどり着きにくいのは、外国人だったり、赤ちゃんのあるお母さんだったりする。みんなのものなのだから、誰でも使えるようにしたい。
愛知川の図書館に、学校に通えないブラジル人の子どもがいた。行き場がないので保健室登校ならぬ図書館登校をしていた。
→ そこで、ポルトガル語で書かれたブラジルの教科書や新聞を図書館に取り揃えたら、それらを読むようになって、次第に元気が出てきて学校に通うようになった。
→ その子が学校を卒業する時に図書館にお礼に来た。
→ 本国にその話が伝わって、ブラジルの書籍が贈られてくるようになった。
→ 図書館でブラジル人が中心となってサンバのイベントを開くなどして、町民も交流して思わぬ展開になった。
図書館で100歳近い高齢者に声をかけたら、戦前からの写真を1000枚以上撮って保管していることが分かった。
→ そこで、それらの中から写真を選んで、100歳100作品展の企画を持ちかけた。その集落のほとんどの人が見に来た。
→ 歩行が大変な高齢者がたくさん来るようになって、高齢者用のカートを導入するきっかけとなった。
図書館にはいろんな人が来る。「図書館は屋根つきの公園」だと思う。
図書館にグランドピアノを置いた。非常識だという人がいるかもしれないが、ホテルのロビーにおいてあってもうるさいという人はいない。自信のある人は弾いてくださいと言う条件付きでピアノを開放したところ、アマチュアからプロまでコンサートをするようにもなった。
図書館のサービスはホテルのサービスと同じだと思うことがある。
「スーホの白い馬」をモンゴルの気分で読みたいという人がいたので、丹波の博物館からゲル(モンゴルのテント)をタダで借りてきたらモンゴル人が設営してくれた。
愛知川の図書館では新聞の折り込みチラシも見ることができるが、折り込みの求人広告を見て就職につながった人が、図書館にお礼に来てくれたこともあった。職員は俄然やる気が出てハローワークのようなサービスを考えたこともあった。
町内でコウモリを見たことのある場所を住民が地図上にプロットする「コウモリマップ」もやったことがある。これはホタル、タヌキ、キツネなどにも応用可能だ。
本を借りて返すだけが図書館の機能ではない。利用者が直接参画して情報が自己増殖していくような仕組みづくりも可能だ。
一つの地区の公民館だよりを図書館で掲示したら、ほかの地区も我も我もと届けてくれるようになった。たまたま間もなく500号を迎えようとしていたので、1から500号までの700ページもの縮刷版を地区でつくるお手伝いもしたことがある。町政要覧があれば、区政要覧があってもよいと思う。
図書館は知恵を育てる場所だ。
他所で捨てられることになっていた舞台を手直しして、貸し出し用やイベント用として保管している。この部隊を使って図書館で薪能などをしたこともある。
隠岐の島にある島根県海士町(人口2500人)のまちじゅう図書館は県産材でつくった本棚を各公共施設において、人が本にどう辿り着くか人と本とを結ぶ情報リテラシーに職員が熱意を持って取り組んでいる。飲食コーナーもあってよいと思う。離島を豊かにするのに図書館は欠かせない。
フィンランドは図書館の利用が世界一(5千人に1カ所の図書館がある)で、これはフィンランドが学力世界一にランクされていることとも関係があるのではないだろうか。
私は中学校区図書館論を唱えている。日本で中学校区に1つ図書館をつくると約1万カ所(約1万人に1カ所)になる。
旭川の旭山動物園がなぜ人気があるか。市民とキャッチボールができている。全職員がやる気になって取り組んでいる。オーダーメードの手作り感がいい。
空間(ハード)は固定化するけど、ソフトは固定化しない。
住民がみんなで関わる仕組みづくり。みんなで情報や価値を加える。
地域の宝を集めて意味づけ価値づけする。地域のB級品をみんなのA級品にする。
本のことをよく知っていても、本と人や事をコーディネートできなくてはダメ。図書館の仕事は一流ホテルの仕事に似ていると思う。
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