日本福祉大学まちづくり研究センター開設記念シンポジウムで山崎亮氏が講演
東海市芸術劇場で開催された日本福祉大学まちづくり研究センター開設記念シンポジウムに参加した。
studio-Lの山崎亮さんが「ひとがつくるまち」と題して講演。山崎さんは東海市生まれで2歳まで東海市で過ごした。
基調講演では、「今宵も始まりました」で有名な観音寺の商店街再活性化の例や、冨岡市、北海道沼田町でのワークショップの様子を紹介。
パネルディスカッションでは、「もはや行政のみのまちづくりは無理。(市民の)参加なくして未来なし。楽しさなくして参加なし。楽しさ、遣り甲斐とは何かを突き詰めて考えるべき。お金を払って、物やサービスを得ることでは楽しさは長続きしない。市民の楽しさの自給力をいかに高めるか。まちの楽しさの自給力をいかに高めるかが重要。」と締めくくった。
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日本福祉大学まちづくり研究センター開設記念シンポジウム「ひとがつくるまち」
2015年11月22日(日) 東海市芸術劇場 多目的ホールにて
プログラム
① 山﨑亮さんの基調講演「ひとがつくるまち」
② パネルディスカッション
Studio-L代表 山崎亮
東海市長 鈴木淳雄
日本福祉大学副学長 平野隆之
日本福祉大学まちづくり研究センター長 千頭聡
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以下は、私のメモから。
■山崎亮さんの基調講演
・香川県観音寺市の事例
観音寺市は人口約6万2千人。商店街はシャッターが目立つ。そこで、30人くらいの商店主が市役所に相談に行った。そして、山崎を呼んでみようということになった。
商店主は年齢が50歳以上の人ばかり。1980年代は肩がぶつかるほどにぎわった。2000年には猫しかいなくなった。今では猫もいない。どこも同じような話だ。商店街の中で「ここは面白いというものはない」と言い切っていた。
実際に現地を歩いてみると、人口減少の最先端を行くような面白いものがあった。下着屋の中にケーキ屋がある。下着屋の息子がパティシエになって家に帰ってきたのだそうだ。そこで、下着屋は、お得意さんの買うもの以外は品ぞろえが減ってスペースに余裕があったので、店の中の棚を寄せて上げて、ケーキを売るスペースを作って息子に任せた。ケーキを食べて下着が合わなくなって、また下着を買いに来るという絶妙の組み合わせだ。ほかにも、クリーニング屋と餃子屋など、いくつかの”shop in shop”があった。これは面白いと思う。これなら、日曜カフェをやってもよい。
しかし、どうやって店を開きたい若者たちと知り合うかが問題だった。1年間ワークショップをやったけど、オッチャンと若者の接点はつくれないことが分かった。
オッチャンたちは、ワークショップよりも終了後の飲み会を楽しみしているようだ。それでは身が入らないので飲み会を禁止にした。実際には互いに誘い合わないルールにしたので、彼らは寂しそうな背中で、各自バラバラに飲みに行った。そのうちの一人がfacebookに飲み屋の様子を撮った写真を添えて「今宵も始まりました!」と投稿した。これが仲間の目に留まり、今では海外も含めて1800人のグループに広がった。そこで、オッチャンたちは「世界的に認知されている」と勘違いして、USTREAMで飲み会の動画配信も始めた。オリジナルグッズもつくった。するとどうだろう、若い人で店を出したい人が集まってきた。JRからも神田ビールまつりで出店を頼まれた。
仏壇屋の中にビリヤードバーが入っているところもある。お客は仏に囲まれてかなりパラダイスだ。補聴器屋の中に「耳にタコ」ならぬたこ焼き屋もできた。着物屋にアーティストが入っているところでは、着物のデザインを真似たうどん手拭いが人気になった。
勘違いが高じて、商店主たちは開業塾+交流会や、ゆるキャラならぬ”いたキャラ”の「いりこマン」と「いりこグッズ」も企画するようになった。studio-Lに関わりのあるまちが観音寺に集まる今宵サミットも始まった。
・群馬県富岡市の事例
世界遺産の消費期限は約3年。仮にトータルで300万人の人に来てもらえるとすると、6年で50万人、さらに12年で25万人にする方が息の長い集客ができる。そのためには、単に見物に来てもらうだけでなく、まちやそこに住む人を好きになってもらうような、関係性をつくる活動が必要なのではないか。ワークショップでは、要望ではなく「提案・実行」をお願いしている。言ったからには自分でやることが必要だ。
・北海道沼田町の事例
厚生連の赤字病院をどうするかに取り組んだ。幸い隣の深川市の病院まで車で20分で行けるので、入院機能は不要。そこで、診療所の機能に福祉施設やサ高住を組み合わせたような福祉センターへの転換を考えた。
役場の職員にもプチコミュニティデザイナーになってもらおうと研修を10回ほど行った。住民は初めは予備知識がないので、4回目までのワークショップは発言(意見)なしで、インプットのみにした。やる気のないドクターの気持ちを変えて、町民に愛されるドクターになってもらった。ワークショップでは、ないものねだりにならないように、施設の面積とコストのわかる簡単な模型を使って、予算も5億トマト(仮想の通貨で表現)に区切って考えたおかげで、7チームあるなかで3プロジェクトに絞り込むことができた。私は建築家だが、自作自演にならないように、設計しないことを心掛けている。プランを出すのは住民自身だ。
ジョン・ラスキンは“There is no wealth but life”と言った。
イギリスでは、伝染病の蔓延を防ぐために、1848年にチャドウィックが5年間の時限立法としてPublic Health Actをつくった。ここから、建築基準法や都市計画法のような都市計画や建築に関わるハードの部分と、公衆衛生に関わるソフトの部分が分かれて発展してきた。Maggie's Center(1996年~)はこれらを統合する動きだ。
まちづくりにはバードとソフトの両面が必要だ。日本福祉大学 まちづくり研究センターの活動に期待したい。
■パネルディスカッション
千頭: まず、市長から東海市のまちづくりへの想いを語ってほしい。
市長: 1ヶ月ほど前に千頭さんから突然、シンポジウムに誘われた。
知多半島は昔から水に苦しんできた。昭和36年に愛知用水が完成して、昭和39年に海を埋め立てて東海製鉄(今の新日鉄住金)が進出してきた。敷地が横須賀町と上野町にまたがっていたのが縁で昭和44年に両町が合併して東海市になった。昭和36年の人口は3.4万人、合併時の人口は7.8万人だった。
平成の初めに都市計画決定をして、太田川周辺46haの区画整理と鉄道高架化と2つの市街地再開発を行ってきた。まちの賑わいと魅力づくりが目的だ。
この8月に国が国土形成計画を発表した。東京圏・名古屋圏・関西圏を一つのスーパーメガリージョンとする内容だ。これはリニア新幹線と成田・羽田・関空・中部の4空港をつないで世界のハブを目指すことが前提だと思う。そのためには西知多道路と中部国際空港の第2滑走路の建設が課題だ。
これから、元気な高齢者をどうつくるか、人口減少にどう対応していくか、ハード・ソフト両面からのアプローチが重要だ。
平野: 山崎さんは地域を元気にする仕事をされていると思う。山崎さんのお話ではなんとなく地域のオッチャン達が主人公になっているが、オッチャン達をその気にさせる裏方の仕掛けがあるのではないか。
山﨑: ある人から私は「放火魔」だと言われた。人の気持ちに火をつけて、どこかへ行ってしまうという意味だと思う。基調講演では話さなかったが、人の気持に火をつけるためにいろんなことをしている。住民の想いや行動に対して球を打ち返していく、ある種スポーツのようなことだ。
例えば、観音寺のケースでは、はじめからfacebookをやっていた人は3人のみ。2人くらいの掛け合いだったが、残りの27人にスマホを買うことを勧めて、使い方講座をやった。そのうち、facebookの輪がさらに娘や孫に広がっていった。facebookは高齢者にやさしいツールだと思う。
いくらハードをつくっても「やろう」と思ってくれる人がいないと、まちづくりはうまくいかない。
平野: まちづくりに向けた職員の人材育成は。また、子どもたちの体験を通した育成は。
山﨑: 子どもたちを巻き込んで主役にしていく。現場体験がキーワードだと思う。特に21世紀は、参加、関与の重要性が顕著になった。facebookやwikipediaは、自らの参加で成り立っている。福祉や介護は当事者も含めた参加が不可欠だ。教育分野におけるactive learnもそうだ。
藤原和博さんたちの反転授業は、まずタブレットを使ってプロによる日本一の授業(それこそ5分に1度は笑いを取れるような)を受けて、学校では、わからなかったところを中心にワークショップをする、学校の先生はファシリテーターみたいなものだ。わからないところを知っている子どもたち同士の学び合いも有効だ。
NPOなどは公共的なことをやりたがっている。行政職員は民間人のパートナーとして、従来の上から目線でない、新しいかかわり方をプロとして研究していかねばならない。
これから仕事の仕方が変わる。より参加・参画を進めて、まちを統治していくことになるのだろう。
千頭: これからの大学の役割は。
平野: 大人の学び直しの機会も大切だ。
市長: 10万都市に2つの大学。まちに大学生がいるだけで元気を感じる。福祉の分野で貢献を期待する。まず学生がしっかり学ぶこと。キャンパスは東海市全域だ。インターンシップなどで、行政と学生が何ができるか一緒に探したい。
これから公共空間のデザインが大事になる。太田川のまちづくりでは一人の人がトータルで監修している。
山﨑: 国の諮問会議に出ているが、硬い会議はやめにして、大臣も入ってもらってワークショップ形式でやってみた。「参加なくして未来なし」「楽しさなくして参加なし」と明記してもらった。もはや政治家・行政のみで決めるのは無理なことを国民・市民の前で明言すべきだ。
そのためには、どこに楽しさがあるか探してはっきりさせる研究が必要だ。一つには知的好奇心があるだろう。ほかにもあるだろう。
カフェのチェーンやアウトレットの話しではない。お金を払って、買い物をしたりサービスを受けることでは楽しさは長続きしない。市民の楽しさの自給力をいかに高めるか。まちの楽しさの自給力をいかに高めるかが鍵になる。
日本福祉大学まちづくり研究センターでは、今後、次のような活動を展開していきたいとしている。
●持続可能な地域づくりを創造していくための政策立案集団、シンクタンク機能
●「ふくし」社会の実態化の推進
●まちづくりに関わる人材育成、ネットワークづくり
ところで、
山崎亮さんの講演の中で出てきたジョン・ラスキンの作品が今ちょうど名古屋市美術館の「ラファエル前派展」で観られるというので、立ち寄ってきた。
(写真は特別展とは関係ありません)
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