「ストック活用によるまちの価値の創造」を聴いて
先月、地域問題研究所の「ストック活用によるまちの価値の創造」と題したセミナーがありました。講師は、東京大学大学院工学系研究科建築学専攻教授の松村秀一さん。行政だけでなく、民間の賃貸オーナーにとっても関心のあるテーマだと思います。
以下、少し読みづらいですが、セミナーのメモです。
世界の住宅投資を調べると、いつでもどこでも住宅投資は建築投資の約半分だった。
しかし、1973年のオイルショックで戦後の高度成長の終わった後も、日本の住宅投資は世界の中で突出して多い。これは人類史上他にないくらい異常なこと。
米国 0.42戸/人(2010年)
日本 0.48戸/人(2012年)
アメリカは戦時中にストックが消失していない。戦後もない。しかし、日本は、1945年以前のストックが引き継がれていない中、戦後ストックを造り直した。総量としては、これ以上増やす必要ない。
これからは、リノベーションとサブリースを使って既存のストックを活用することが重要になる。
たとえば、銀座線の末広町にある旧練成中学校の校舎を再利用した3331アート(中村政人らによる)。上野というオーセンティックなアートと秋葉原のサブカルチャーに挟まれた立地だ。
移動の自由がありローンからも解放されている賃貸の自由度は高い。それを考えると、所有よりも(賃貸で)利用する方が有利。家を所有するというこだわりは、東京の若い人たちの間にはもうすでにない。賃貸の方が断然面白い。
賃貸住宅の分野では、豊島区のロイヤルアネックス・メゾン青樹
http://www.maison-aoki.jp/
http://greenz.jp/2014/08/22/maison_aoki/
http://business.nikkeibp.co.jp/article/NBD/20120614/233349/?ST=pc
のようなカリスマオーナーが出てきた。
昭和56年の新耐震以前の物件を親から相続で引き継いだが、「古い」「空室率が高い」「どうしよう」となった。
青木さんの場合、原状復帰義務なし、カスタマイズOK、のオーダーメイド賃貸にしたら、2010年頃から爆発的な人気になった。セルフリノベーションパーティーからSNSで口コミ情報が伝わる。結果、誰が住んでいるかわかる賃貸住宅になった。いつのまにか、空室物件が空室待ち物件に変わってしまった。
「空き家問題」はウソ。正しくは「空き家の運営問題」だ。空き家は空間資源だ。
日野市の多摩平団地では、
建て替えのときに5棟を壊さずに残してサブリースにした。「たまむすびテラス」と名付けランドスケープデザインをした。2棟をプロ仕様の共通キッチン・ランドリー・シャワーなどを備えたシェアハウスに、1棟を地元の企業が地元貢献としてエレベータをつけ菜園付きのサービス付き高齢者向け住宅にした。もし、UR(独立行政法人都市再生機構)がやっていたら、全部一律にエレベータをつける大規模改装になっただろう。
岡山市には、昭和40年頃に街の中心部から移転した、グリッド上の街区に低層の建物が建ち並ぶ古くなった問屋街がある。そこへ街で一番エッジの効いたパン屋を呼んだ。あるトーンをもってリーシングしていく。もともと路上駐車はOKの所だ。
すると、衰退して賃料がタダのようになった場所が、今や岡山駅前よりも高くなった。そのうち外部資本が入ってマンションが建ち始めるとこういった所は成り立たなくなる。かつてのNYのソーホーみたいだ。ジェントリフィケーションが進むと貧乏なアーティストは居られない。
人と人の関わりの中で、新しい暮らしの場が生まれている。
徳島県の神山町は、地域資源の管理をしていると言える。このまちに欲しいものを募集するエリアマネジメントだ。
消極的な「つまらない賃貸」から、「愛ある賃貸」へ脱皮しよう。
オーナーが自問自答をしてみる。はたして自分の物件を愛しているか?住んでいる人間との間に愛があるか? これまでの賃貸は、すべて×ではないだろうか。
清水義次は「公共の役割は(道路も含めて)大きな地主」と言っている。これからの利活用については、公共施設についても同じことが言える。
シェアハウスが話題になる前に、「ゲストハウス」があった。当時、研究テーマとして実際にゲストハウスに住んでみた学生がいたので、その詳しい学生に一番気に入っているゲストハウスを聞いてみた。そうしたら、崖地に立っている昔で言えば何の変哲もないモルタル木造に連れて行かれて、「これが最高にシブいんですよ」と言った。現代は、こういうのに家賃を払う人がいるのだ。
建物(ハコもの)はパソコンと同じで中にコンテンツがないと意味をなさない。
すなわち、「場」化する、人と人を出会わせるチカラを問われる。
長野市門前町(善光寺の門前街)では、80軒をIターンでうめた。ナノグラフィカルなどががんばっている。「ビル1棟7万円/月は安い」「やってみようか」「長野へ行こう」となる。
東京R不動産の馬場さんは、市場に出ていない馬喰町の空き家に目を付けた。空き家探しのブログにフォロアーがついて、マッチングサービスに発展した。
今、全国14都市にR不動産ができた。ウェブ上のアイコンをついつい押したくなるエディトリアルデザイン+ワンストップサービスがウケている。
それに引き換え、行政の空き家バンクには工夫がない。
面白い仕事をしよう。まちが良くなるのはその結果。
「未来の仕事」をしよう。雇用されるのではなくown workとして。いま、リノベーションの世界がおもしろい。
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