根拠ある施策のために
教育経済学者の中室牧子 慶応大学准教授が書いた『「学力」の経済学』という本を読みました。一年前に買った本を一時読みかけにしていたものを再読しました。
なかなかキャッチーな見出しがついています。
第1章 他人の成功体験はわが子にも活かせるのか?
第2章 子どもをご褒美で釣ってはいけないのか?
第3章 勉強は本当にそんなに大切なのか?
第4章 少人数学級には効果があるのか?
第5章 いい先生とはどんな先生なのか?
著者によれば、大方の教育評論家の主張では、
ご褒美で釣っては“いけない”
ほめて育てた方が“よい”
ゲームをすると“暴力的になる”
といったものですが、著者が統計データから根拠をもって出せる結論は正反対のものだそうです。
もちろん、ある条件下で得られたデータだとは思いますが、感覚やムードではなく根拠に基づいた科学的な議論が必要なことは間違いありません。
著者は、「経済学がデータを用いて明らかにしている教育や子育てに関する発見は、教育評論家や子育て専門家の指南やノウハウよりも、よっぽど価値がある。むしろ知っておかないともったいない。」と言います。
私も、常々、学校の先生などに申し上げていることですが、日本の教育では、つめこみ教育の反省に始まり、視聴覚教育・ゆとり教育・総合学習・学力テスト・ITC教育・英語教育・道徳教育・アクティブラーニングなど、トレンドに乗って次々と新しい科目や手法が導入されているにもかかわらず、その教育の効果を評価した結果を聞いたことがありません。これらの教育が思いつきで行われ、その後の評価が行われていないとすれば、恐ろしいことです。
たとえば、第4章に出てきますが、日本では「少人数学級」は望ましい施策とされています。しかしながら、アメリカで行われた調査では40人から35人のように1学級あたり生徒を5人減少させるような投資は効果がないとの結果が出ています。また、横浜市を対象に行った調査でも、少人数学級の効果は小学校の国語において若干確認されたものの、他の教科や中学生には効果が見られませんでした。
このように、巨額の財政赤字を抱えている日本において、「少人数学級になるときめ細かい指導ができる」などという根拠のない期待や思い込みで、財政支出を行うのは極めて危険!と結論付けています。そもそも財政難であるなしにかかわらず、効果不明の施策を続けること自体が問題です。今後は、効果測定による科学的な根拠に基づいた教育政策の議論が不可欠だと思います。
教育に限らず、行政の施策には科学的な根拠が希薄なものが見受けられます。健康・医療の分野についても同様ではないでしょうか。
以下は、エビデンスに基づく施策決定に関連する記事です。
「原因と結果の経済学」・・・因果関係と相関関係 (ダイヤモンドオンライン)
→http://diamond.jp/articles/-/117464
科学的根拠に基づくがん検診 推進のページ (国立がん研究センター)
→http://canscreen.ncc.go.jp/
医療政策学×医療経済学 (津川友介)
→https://healthpolicyhealthecon.com/
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