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2019/03/08

川西康之さんの講演「領域を超えて・・・見えないニーズ汲み取りと建築デザインの役割」を聴いて

領域を超えて・・・見えないニーズ汲み取りと建築デザインの役割」と題した講演を聴く機会がありました。最近、地方自治体が公共の場をデザインすることの大切さに覚醒しつつあると思います。

講師は、(株)イチバンセン 一級建築士事務所 川西康之さん。えちごトキめき鉄道の車両デザインなど、鉄道関連の作品も数多く手がけています。
以下は私なりの講演の要約。
 

建築家・設計者・デザイナーとは、未来のユーザーの代弁者・翻訳者だ。

デザインとは、色や形や模様のことではない。
デザインとは、人口減少、少子高齢化など、経済ではどうにもならない課題解決のための手段。いま、仕事の半分は地方自治体の関係の仕事だ。

ただし、自己主張の押し付け、専門用語だらけの説明、未来なき御用聞きに陥らないよう気をつけねばならない。

このまちが好きだと思わせる仕掛け(いかにこのまちで死ぬまで暮らしたいか)が必要だ。

自分の手がけた2つの事例をお話しする。

 
★事例1: デザイナーが一生懸命未来を創造(片思い的)

 土佐くろしお鉄道 中村駅の駅舎リノベーション
 https://www.jsce.or.jp/committee/lsd/prize/2012/works/2012g1.html

「本当はこんなことがほしかったのでは?」という見えないニーズをくみ取るチカラが大事。

四万十市(旧中村市)の人口34000人。高知県の人口は70万人。
国鉄中村線が昭和45年に開通するまでは、リアス式海岸を船で行く陸の孤島だった。現在、三セクで運営されている土佐くろしお鉄道は、年間2億円の赤字が出る。

ここで、鉄道・バスの待ち時間の質を上げることを狙って、国の補助金3400万円を使って、駅の内装・外装を変えようとした。外装に金をかけず、内装は地元産のヒノキを使った(他にない物を地元の技術で実現)。

①不要のバリア(改札)を撤去して利用者本位に。(JR四国の自動改札は高松付近の8駅のみ)
②美しく見る、見られる空間をまちに提供。
③待ち時間の質向上をトータルにデザイン。

関係者は、事業主体とユーザーと設計者。市は関与しないし、市民への説明はない。
四万十市は87%が森林で杉が多いが、東京オペラシティーのひのき舞台は四万十産。赤味と油分が多いのが特徴。

待合室の天井・壁・床・ベンチ・テーブルをすべて暖色の無垢のヒノキにすることで、人の肌が映えて、駅の客を美人に見せる作戦をとる。
特急の始発駅でもあるので待合客もいるが、通学の学生の自習にも使ってもらう。

以前は、ゴミやタバコを散らかす人がいたが、木でつくると、8年経ってもゴミがない、落書きがない。質の高い公共空間は市民とともに育つと思う。

都会の駅は客をどうやってさばくかが関心事。だから、ベンチを置かない。モラルを低く想定する。

中村は客が少ないから贅沢ができる。ヒノキのイスとテーブルもある。
客を美人に見せよう。公共交通では「みる」「みられる」が大事。
地元の議員は、もっと都会っぽい物(金属やガラス)でやれといったが、都会は誰かに見られるから、おしゃれで華やかなのだ。色気を演出するのが都会っぽさだ。

以前、フランス国鉄にいたことがある。
ドイツ国境に近いところにストラスブールという人口約26万人のまちがある。フランスとドイツが戦争しなければとの願いを込めて、EU議会が置かれている。
以前はシャッター通りで治安も悪かった。国の人口の4/1がパリ首都圏に集まる首都圏集中を改めようと、シラク政権が地方都市の再生を掲げた。
ストラスブールはトラムを導入しただけでなく、まちの中心部に美人を入れる作戦をとった。例えば、天井・壁・座席がオレンジ色の店内。白の反対で、肌や表情が映える。
フランスの中心市街地は女性が中心。人が集まる所はアスファルトではなく白い舗装だったりする。“カーリング娘効果”だ。光の効果を計算して、人をどう演出するかがデザインの本質だ。

 
★事例2: 住民、利用者と一緒に未来を創造(答えのない議論から始まって)

 奈良県川西町 近鉄結崎駅周辺都市再整備
 http://www.town.nara-kawanishi.lg.jp/contents_detail.php?frmId=4399

川西町の人口8000人、1日駅利用者2000人、自分が19歳まで育った。団地ができて、大阪、京都のベッドタウンに。子どもは町外に出ていく。駅前に銀行と郵便局が一つずつ。

踏切の両側に駅の改札をつくるか?橋上駅にするか? 橋上駅は30億円かかる。

・事業、空間シナリオ
・運営体制シナリオ
・空間&広場プラン
を練るのに、延べ900人、18回のフューチャーセッションを開いた。中途半端に2~3回で終わりがちだが、1年かけて、人が偏らないように、徹底的にやった。好き放題、無責任も結構。ネットで見える化した。

地上か?橋上か?=71人:35人で、住民は踏切の平面交差を選んだ。駅は無人。
“駅前にスタバを呼びたい”は田舎者の典型。1日350円×500杯売れないとスタバは来てくれない。セブンイレブンは1日50万円売り上げが必要。

2~3か月セッションをやっていると、いい加減なことを言っていることに住民が我事として気づく。一部の参加者が発言を支配しないようにコントロールする。公共がやるべきこと、民間がやるべきことも出てくる。子どもを預かってくれれば買い物をするという意見も出る。

すでに、基本構想基本計画がまとまり、川西さんたちが運営会社をつくって2年後に再整備を完成するとのこと。
最後に、まちをデザインするには、良い設計者に会えるコンペの仕組みが必要と結んだ。

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コメント

川西康之さんは知りませんでした。土佐くろしお鉄道中村駅の駅舎、奈良県川西町_近鉄結崎駅周辺都市再整備もはじめて知りました。この記事の中にも感じられましたが、安易に都会的に整備しようとする住民、議会議員は多いと思います。ご紹介の事例、秀れたアイデアとそれを評価させる粘り強い訴求・交渉。このような人が各分野でいます。各種ニュースで紹介されています。補助金や政策で保護されなくても事業をなし遂げているひとは農業でも多くいます。多くの人たちが共有できるトライのご紹介。反対勢力は多くいますが、住んでいる地元を活性化する方法は多様ですね。人材も多様です。

投稿: とだ-k | 2019/03/11 21:45

とだ-k様
何かにつけて、量の充足の時代は終わり、質の充実の時代になった事は間違いありません。ですから、何をつくるにしても、「デザイン」の考え方が欠かせなくなっています。

講演の冒頭の言葉は、まさにエッセンスだと思います。↓

建築家・設計者・デザイナーとは、未来のユーザーの代弁者・翻訳者だ。
デザインとは、色や形や模様のことではない。
デザインとは、人口減少、少子高齢化など、経済ではどうにもならない課題解決のための手段だ。
ただし、自己主張の押し付け、専門用語だらけの説明、未来なき御用聞きに陥らないよう気をつけねばならない。
このまちが好きだと思わせる仕掛けが必要だ。

投稿: 神谷明彦 | 2019/03/17 20:47

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