ブログを読んでくださった方からこんな本をいただきました。
つれづれログの投稿の中で「一家に1枚、元素周期表」という記事があります。この記事を読んでくださった出版関係の方から「こんな本を編集したので感想をください」とお手紙と本をいただきました。ちょっとサプライズでしたが、ブログを読んで嬉しくなったとのこと。お手紙をいただいて本人はもっと嬉しくなりました。ありがとうございます。
本の名前は「宮沢賢治の元素図鑑」。宮沢賢治は子どもの頃から鉱物集めが趣味で、旧制盛岡高等農林学校(現岩手大学農学部)では自然科学を学びました。賢治の詩の中には鉱物や元素のことがたくさん出てきます。そんな賢治の詩にちなんだ元素の解説図鑑です。
ところでところで、元素とは何でしょう。元素とは、万物の根源となるそれ以上分割できない要素(化学においては原子)のこと。原子を構成する陽子の数が同数の原子の集まりです。陽子数の順に原子番号が振られていて、現在、陽子数1の水素から陽子数118のウンウンオクチウムまでが元素周期表に表示されています。自然界に存在するのは原子番号92のウランまでで、それ以上のものは加速器などで人工的に造られ、不安定で寿命の短いものがほとんどです。
ここで、「万物の根源となるそれ以上分割できない要素」に対して、個々の粒子に着目するときは「原子」、種類に着目するときは「元素」と呼びます。例えば、元素の種類と化学的性質は原子核の陽子数で決まるので、水素原子(自然界に最も多く存在する陽子1個のみのもの)と重水素原子(原子核が陽子1個と中性子1個からできているもの)は異なる原子ですが、元素の種類は同じ水素です。
元素の中で一番単純なものは、陽子数1個の水素です。その次は、陽子数2個のヘリウムです。両方とも原子核が単純なので空気よりも軽い気体として知られています。陽子1個の水素原子が2つ結合した水素分子(H2、陽子2個分)は、陽子2個と中性子2個でできたヘリウム原子が単独で存在するヘリウム分子(He、陽子2個+中性子2個分)と比べて約半分の重さになります。気体の場合、同じ体積当たりの分子の数は同じになる(アボガドロの法則)ので、常温で窒素(N2、陽子14個+中性子14個分)より軽い気体は水素とヘリウムしかありません。
水素の方がヘリウムよりも軽いので空飛ぶ風船の中身には適していますが、水素は空気中の酸素と激しく反応して燃える性質があるので、気球やおもちゃの風船に使うガスにはヘリウムが使われています。軽くて単純な元素は、沸点が低い性質も持ち合わせています。ヘリウムの沸点は-269℃で、液体ヘリウムはリニアモーターカーやMRIの超伝導磁石を冷却するのに使われます。
窒素と酸素の次に重い気体はフッ素です。フッ素は他の元素ととても結びつき易くヘリウムとネオンを除く全ての元素と化学反応をします。フッ素とカルシウムの化合物で、蛍石という鉱物があります。熱を加えると発光することから蛍石と名付けられました。フッ素は虫歯予防の歯磨きに使われたりします。これはフッ素がカルシウムと結びつきやすい性質を利用しているのだと思います。
セレンという元素をご存じでしょうか。イオウと似た性質を持つ元素です。セレンはフケ・痒みを防ぐためにごく少量をシャンプーの成分として使ったり、また、セレンに光を当てると電気伝導性が大きく変わる性質はゼロックスコピーの原理に使われたりしています。
賢治が27歳の時に、東北本線の信号機“シグナル”と岩手軽便鉄道の小さな腕木式信号機“シグナレス”の切ない恋をユーモラスに描いた童話の一節「五日の月が・・・鈍い鉛のやうな光で」から鉛も登場します。鉛の英語名“lead”は低い温度でも融けやすい“溶融性”が語源のようです。ラテン語名“Plumbum”はちょっと華やかな語感があって元素記号“Pb”の由来になっています。日本では長い間「おしろい」に炭酸鉛を使っていましたが、毒性があるため1953年に禁止されています。鉛はいまでも優れた電極材料として車載用の鉛蓄電池や、陽子数82で原子核の密度が高いことを活かして放射線の遮蔽材料として使われています。
こんな感じで、それぞれの元素の性質をトピックスを交えながら平易に解説する本です。宮沢賢治の作品に出てくるすべての元素の他、現在知られている118元素とそれらを含む鉱物について、宮沢賢治の生涯と作品に触れつつ、ちょっと文学的に解説してくれます。最初から読まないとストーリーについて行けないような物語ではないので、気楽に元素のことを知るにはお手頃ではないでしょうか。
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